| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-206 (Poster presentation)

気仙沼湾において震災後に創出された河口部の塩性湿地が陸域から沿岸への栄養塩濃度と組成に与える影響

*福島慶太郎, 長坂翔子 (首都大・都市環境), 鈴木伸弥, 日高渉 (京大院・農), 横山勝英 (首都大・都市環境)

沿岸・海洋域の一次生産を律速する養分物質として,窒素(N)やリン(P)の無機態塩(硝酸態窒素(NO3-),アンモニウム態窒素(NH4+),リン酸態リン(PO43-)や,溶存態鉄(Fe)が重要であることが知られている。これらは,主に陸域から河川を通じて沿岸・海洋域に輸送される。そのため,沿岸・海洋域における栄 養塩動態や基礎生産を理解するには,河川上流から下流に至るまでの水質形成要因の把握が不可欠である。本研究において,東日本大震災の津波と地盤沈下によって壊滅的な打撃を受けた気仙沼湾及び舞根湾に流入する4つの河川の上流から下流までの水質の時空間変化を調べた。また,舞根湾奥の西舞根川河口付近に,震災後に創出した塩性湿地が,陸域から河口への栄養塩輸送に及ぼす影響を明らかにした。

各流域の全窒素(TN)や全リン(TP),NO3-濃度は,流域内の土地利用に強く規定されており,農地や市街地がソースとして重要であった。大川の河口付近では,2013年前半に一時的にNH4+濃度が急上昇しており,当該地域における下水処理施設の停止期間中に復興した産業施設からの排水が一因であると推察された。

地盤沈下によって西舞根川河口域に出現した塩性湿地は,栄養塩の濃度や組成を大きく変化させることが明らかとなった。湿地に流入する直前の河川水と湿地から河口域へと流出する河川水の水質を比較すると,酸化還元電位が大きく低下し,NO3-濃度の低下とNH4+,TP,Fe濃度の上昇がみられた。湿地底泥の嫌気培養によっても同様の現象が確認された。これは,震災後に創出した湿地は底泥中の有機物が豊富であり,嫌気環境下での底泥有機物分解に伴う養分動態が陸域から河口への栄養塩の量的かつ質的変化をもたらしたと考えられた。


日本生態学会