| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-214 (Poster presentation)

落葉前リン再吸収による生葉からリター葉への細胞内リン画分の変化 -リターを通して土壌に加入するリン画分の特定-

*辻井悠希,小野田雄介,北山兼弘(京大・農・森林生態)

落葉前リン再吸収は、老化葉から新葉へリンを転流させる仕組みであり、リターとして土壌に加入するリンの量と組成を決定する。再吸収には老化葉の中での有機態リンの分解が関わるので、分解の生化学的背景の解明は陸上生態系のリン循環を理解するために重要である。これまでに世界中でリンの再吸収が調べられ、リン欠乏環境ほどリン再吸収効率が増加することが分かっている。一方、再吸収効率の上限や種間差がどのように決定されるのかは未解明であった。私達は、葉に含まれる複数のリン画分(i.e. 易溶性画分、核酸画分、脂質画分、残渣画分)が異なる分解性をもち、植物のリン要求度に応じて異なるリン画分が分解されるために再吸収効率に種間差が生じると考えた。リン画分間での再吸収効率を比較するため、キナバル山のリン欠乏度が異なる3つの森林で、22種の樹木から生葉と老化葉を採集し、葉中のリンを上述の4画分にわけ、画分毎の再吸収効率を求めた。リン再吸収効率は画分間で有意に異なり、画分毎の再吸収効率は、脂質>核酸>易溶性=残渣となった。これは、リン再吸収において脂質が優先的に分解されることを示している。従って、老化葉では生葉と比べ脂質画分の比率が有意に減少し、残渣画分の比率が有意に増加した。易溶性画分は分解の生成物を含むため、老化葉での比率が生葉と比べて高まる傾向を示した。また、リン再吸収効率の高い種は残渣画分についても脂質画分や核酸画分と同様に高い再吸収効率を示し、リンの要求度に応じて異なるリン画分が分解されることが示唆された。このような分解様式の種間差はリターの質を多様にし、生態系の物質循環に影響すると考えられる。


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