| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-038 (Poster presentation)

テングタケ属子実体で繁殖する双翅目昆虫群集

*新田真之,都野展子,小林美緒(金沢大・自然科学)

菌食性双翅目からは複数の科にわたる菌種を繁殖に利用する広食性種が多く報告されている(Hackman and Meinander 1979)。広食性進化の要因として、子実体の存在期間が短いためとする仮説と、子実体の化学組成が系統間で大きく違わないためとする仮説が提案されている(Lacy 1984;Jaenike 1987;Hanski 1989)。前者を肯定する研究は報告されているが、後者の前提とされる物理化学的均一性を否定する報告もあり、実のところ子実体に存在する二次代謝産物については不明な菌種が多いのが現状である。致死的毒成分を作るため生化学的研究の進んでいるテングタケ属子実体の、殺ハエ成分であるイボテン酸濃度を定量したところ、発生段階と部位により変化することが報告されている(角田ら 1993)。またショウジョウバエ科5種を用いたイボテン酸耐性実験では、5種の菌食への依存度とイボテン酸耐性がパラレルに変化することが報告されている(Tuno et al. 2007)。これらの結果は毒を作ることは菌類にとって、毒耐性をもつことは菌食性昆虫にとって適応的現象であり、一つの子実体がその発生段階や部位により、菌食性昆虫に多様なニッチを提供しうることを推測させる。本研究ではテングタケ属子実体内で繁殖した昆虫種の占めたニッチを詳細に調査した。

採集した子実体から5360個体の羽化個体が得られた。膜翅目1個体を除いて全て双翅目であった。優占種において羽化密度を成熟度と部位間で比較したところ有意な差がみられた。また、テングタケ属以外の他菌種でも同様に比較したところ有意な差がみられた。共通種を両者で比較すると同じ選好性を示す種と異なる選好性を示す種がみうけられた。本研究から菌食性双翅目は多数の菌種を利用するが、利用する子実体の成熟度や部位に選好性があり、選好性は菌種によっても異なることが明らかとなった。


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