| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-067 (Poster presentation)

ハリガネムシ類が利用する中間宿主の特性と感染の季節推移

*山下純平(京大院・理),渡辺勝敏(京大院・理),佐藤拓哉(神大院・理)

一生のなかで中間宿主を利用する寄生者は多く、その個体群動態や生態系への影響を理解する上で、生活史の理解は重要である。ハリガネムシ類(類線形動物門)は中間宿主に水生昆虫、終宿主に陸生の肉食・雑食性昆虫を利用する寄生虫であり、その生活史には未解明な部分が多く、特に中間宿主についての知見は乏しい。本研究は、ハリガネムシが中間宿主として主に利用する水生昆虫の種を明らかにすることを目的とし、奈良県野迫川村の十津川水系の山地渓流で、2007年4月から2008年3月までほぼ毎月採集された水生昆虫の感染状況を調査した。水生昆虫の消化管を取り出して光学顕微鏡(100–600倍)のもとで観察し、感染しているシスト(中間宿主中でのハリガネムシの状態)の数と宿主の体サイズ(頭幅)を計数した。シストの感染率と感染シスト数は、フタスジモンカゲロウ(カゲロウ目)で比較的高かった(各月の平均でそれぞれ20–88%、0.2–36個)。これは、本種が砂底の巣に棲むことと濾過食性であることにおそらく起因すると考えられる。ハリガネムシはまた、モンカワゲラ属とヤマトヒメミドリカワゲラ(カワゲラ目;捕食者)、トビイロカゲロウ科(カゲロウ目;剥ぎ取り食者)、およびユスリカ科(ハエ目;捕食者もしくは濾過食者)にも比較的高頻度で感染していた(各月の平均でそれぞれ11–80%、0–42%、0–53%、0–50%)。トビケラ目にはほとんど感染が見られなかった(平均1.8%)。シストの感染強度は瀬よりも淵で高い傾向にあり、その季節性は、ハリガネムシの繁殖時期以降に増加し、宿主の羽化時期に減少するというように、宿主と寄生者の生活史を反映していそうである。淵に棲むフタスジモンカゲロウは、本調査地でハリガネムシの主要な中間宿主であると考えられたが、普遍性や陸上への媒介者としての有効性を今後明らかにする必要がある。


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