| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-068 (Poster presentation)

撹乱強度に伴う優占二枚貝の機能の変化

*折田 亮(熊本県立大院・環境共生), 小森田 智大, 一宮 睦雄, 堤 裕昭(熊本県立大・環境共生)

沿岸海域における環境撹乱の1つに海底の貧酸素化が挙げられる。貧酸素化の強度に沿って海産無脊椎動物の群集構造や生物間相互作用は変化し、貧酸素化の進行に伴い生態系機能が低下することが知られている。こうした撹乱のある環境下において、耐性を有し生残できる種はその場の生態系機能を担う重要な生物である。耐性種にとって撹乱強度が増加する傾度は耐性の閾値に近づいてしまう負の効果と、生物間相互作用(競争・被食)が減少することによる正の効果をもたらすことが推測され、その関係性の解明は撹乱環境下における生態系機能を理解する上で有意義である。そこで、本研究では空間的に撹乱強度の異なる2定点における耐性種の個体群動態に注目し、地点間の比較を通して、空間的な撹乱強度の違いが耐性種の個体群維持にどのように作用し、結果として生態系機能にどのように寄与しているのかを考察する。

夏季、貧酸素化する有明海湾奥部海域で優占する小型二枚貝のヒメカノコアサリを対象種とし、事前調査で撹乱強度(底層水DO・底質TOC、AVS)の異なることが明らかになっている2定点において、2013年7月から2014年9月にかけて対象種の密度、現存量、殻長頻度分布の経時変化ならびに死殻の状態を調査した。

対象種は、撹乱の弱い地点では8月の加入から秋にかけて大きく成長し、翌春にはその大部分が減耗したのに対し、撹乱の強い地点では加入後の成長に鈍化が見られ(コホートの小型化)、翌春にかけての減耗が小さく成熟個体の生残率が高かった。これらの結果より、撹乱の弱い地点では本種が物質循環における栄養転換の円滑な栄養群として機能する一方で、撹乱の強い地点では本種の再生産へ寄与する個体が効率よく生残する場として機能していることが考えられた。


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