| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-083 (Poster presentation)

過去の景観構造による草地性チョウ類・ジャノメチョウ局所個体群への影響

*坂入一瑳,長谷川雅美(東邦大・理)

生息環境の分断や減少は個体群を縮小・絶滅させる主要な要因の1つである。一方、急速な生息環境の変化に対して生物の分布の応答に時間的な遅れが生じることがしばしば報告されている。しかし、この現象は主に群集や長寿命の種で検証されたものが多く、短命の単一種に着目して行われた研究は少ない。また、この現象はメタ個体群理論で説明されることが多いが、実際にメタ個体群を形成する生物を用いてその現象を実証した研究も少ない。これらを踏まえ、本研究では都市開発により里山環境が著しく減少した千葉県北西部の柏市南部、白井市、印西市において、パッチ状の草地でメタ個体群を形成するジャノメチョウ(Minois dryas)を用いて、生息環境の変化に対して分布の応答の遅れが生じるのか検証した。今回の研究では成虫の発生時期である7月に記録した各パッチでの個体数を応答変数とし、以下の説明変数を一般化線形混合モデル(GLMM)によって解析した。

パッチの質として①食草の被度②着花植物の被度③平均草丈④林縁面積⑤ブナ科樹木の胸高直径の合計値(樹液量の指標)、景観的な要因として⑥現在及び1980年代のパッチ面積⑦現在及び1980年代の1400mバッファー内の草地面積⑧現在及び1980年代の1400mバッファー内の森林面積⑨現在における占有パッチとの連結性のデータを用いた。

その結果、パッチの質として食草の被度・着花植物の被度・ブナ科樹木の胸高直径の合計値、景観的な要因として占有パッチの連結性が正に有意に影響していた。そして、現在のパッチ面積よりも1980年代のパッチ面積の方がジャノメチョウの個体数に大きく正に影響していることがわかった。このことは千葉県北西部のジャノメチョウ・メタ個体群に関して、生息環境の変化に対する分布の応答に遅れが起きていることを示唆している。


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