| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-091 (Poster presentation)

ニホンザルは行動圏の周縁で採食樹利用を変化させるか

*栗原洋介,半谷吾郎(京都大・霊長研)

なわばり防衛は食物資源の獲得を通して動物の生存や繁殖に結びつく重要な行動である。一方、なわばり防衛にはケガなどのリスクが伴うため、動物は不必要な争いを避けている。たとえば、行動圏の周縁で視覚・聴覚・嗅覚シグナルを用いて自群の存在をアピールすることで、隣接群との距離を調節し、攻撃を伴う群間交渉を避けていると知られている。しかし、そのようなシグナルを持たない種が行動圏内の場所(中心/周縁)によって行動を変えているのかどうかについては十分に検討されていない。本研究では、屋久島に生息するニホンザルを対象とし、行動圏内の採食樹の位置が採食樹利用に影響をあたえるかどうか検証した。対象は屋久島海岸域に生息するニホンザル 1 群である。2013 年 2 月から 10 月の間、対象群に属するすべての成体メス(1-4 個体)を個体追跡し、直接観察を行った。追跡個体が採食樹を利用した際、滞在時間、採食時間、同一採食樹内個体数、見回し行動の頻度を記録した。また、GPS を用いて、追跡個体および採食樹の位置を記録した。行動圏の周縁の採食樹では、同一採食樹内個体数が多かった。しかし、採食樹滞在時間、滞在中の採食時間、見回し頻度は変わらなかった。屋久島海岸域では群間攻撃交渉の勝敗が群れサイズによって決まるため (Sugiura et al., 2000)、周縁の採食樹でより多くの個体と近接することは行動圏を防衛するために効果的なのかもしれない。あるいは、個体の見回し頻度は変わらなかったが、周縁の採食樹でより多くの個体と近接することで、群れ全体での見回し頻度を増加させている可能性がある。これは、より早く他群を発見し、群れどうしの出会いを避けることに貢献するだろう。


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