| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-092 (Poster presentation)

シロアリのコロニー経営学:羽アリ生産と蟻道建設のトレードオフ

*水元惟暁, 松浦健二(京大院・農)

自然界には様々な生物集団が形成するパターンがみられる。社会性昆虫の作り出す複雑で巨大な構造物はその一つの例であり、自己組織化のプロセスを経ることが、個体レベルでの相互作用から全体レベルの構造を作り出すことを可能としている。このような構造物には種内においてもサイズや形に変異が見られ、その一つの要因としてコロニーの成長に伴うコロニーサイズの増加が知られてきた。しかしながら、コロニーの成長に伴ってコロニーメンバーの組成もまた大きく変化していくにもかかわらず、それが構造物形成に与える影響についてはほとんど知られていない。本発表では、ヤマトシロアリの蟻道建設を用いて、構造物形成によるコロニーの拡大とコロニーレベルの繁殖である有翅虫生産が、トレードオフの関係になっていることを示す。野外で群飛が行われる時期に採集したコロニーのワーカーを用いて、蟻道建設実験を行ったところ、有翅虫を生産していなかったコロニー由来のワーカーは活発に蟻道建設を行ったが、有翅虫を生産していたコロニーのワーカーはほとんど蟻道建設を行わなかった。また、有翅虫を生産していたコロニーのワーカーは生産していなかったコロニーのワーカーと比べ、乾重あたりの体脂肪量が少なかった。これらの結果は、集団サイズだけでなく建設に関わるワーカーの生理状態の違いが、構造物形成に強く影響を与えることを示しており、パターン形成の研究においても様々な個体の状態を考慮する必要があることを示唆する。また本発表では、構造物形成を通して、成長と繁殖への資源配分におけるコロニーの戦略の違いについても議論する。


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