| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-094 (Poster presentation)

マルハナバチタマセンチュウによる感染マルハナバチ女王の移動分散制限の証拠:どのくらいの空間スケールで制限されているのか?

*針山珠美,辻本翔平,石井博(富大・理)

マルハナバチタマセンチュウはマルハナバチ女王に寄生し、これを不妊化する寄生虫である。感染女王は営巣せず、夏まで繰り返し地表を徘徊しつつ、肛門から寄生者の幼虫を土中に放出する。間接的な証拠からは、感染女王は移動分散しなくなることが示唆されている。

宿主の移動分散抑制は、この寄生虫が群集に与える影響の在り方を決定づける重要な特性である。しかし、宿主の移動分散抑制に対する直接的な証拠はない。また、移動分散が抑制されているとしたら、どのくらいの空間スケールで抑制されているのかもわかっていない。

そこで本研究では、地表付近を飛行中(または地表徘徊中)の感染女王を捕獲し、マーキングをして再放逐することで、感染女王がどの程度の空間スケールで移動・拡散しているのかを調査した。調査は2014年6月に、北海道東神楽町(セイヨウオオマルハナバチ)と富山県黒部市(トラマルハナバチ)の感染女王個体群を対象に行った。

その結果、北海道の調査では、約2㎞離れた2つの感染個体群間で、短期的には交流がほとんどない(またはない)ことが示された。また、捕獲エリア(約120×280mの範囲)で捕獲した個体は、一ヶ所に集めてから放逐したにも関わらず、翌日以降も、各々の捕獲場所から比較的近い場所で再確認される傾向があった(捕獲場所と再確認場所の平均距離は56.6±5.6m:±標準誤差)。富山県の調査では、捕獲エリア(約80×180m)から200m離れた地点で放逐した感染個体も、捕獲エリア内で放逐した個体と同程度の割合(約48%)で、捕獲エリア内で再確認された。

営巣前のマルハナバチ女王の移動分散能力は、一般に非常に高いと言われている。従って、これらの結果は、感染女王の移動分散が数十-数百mのスケールまで抑制されていることを示している。


日本生態学会