| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-133 (Poster presentation)

個体群再生計画下でのシマフクロウの分散:動的分布モデルを用いた予測

*吉井千晶(北大院・農), 山浦悠一(森林総研・植生), 小林慶子(北大院・農), 赤坂卓美(帯広畜大), 中村太士(北大院・農)

好適な生息地に到達できていない(分散のタイムラグ)などの理由で,生物の分布は必ずしも環境状態に対して平衡状態とはいえない。希少種の分布拡大を促す際には,分散のタイムラグを考慮した上で保全計画を立てることで効率的かつ信頼性の高い保全事業を行なうことができると考えられる。本研究では,希少種であるシマフクロウKetupa blakistoniの将来の分布を、環境変化と分散を考慮した動的分布モデルで予測し,その結果から個体群回復の為の効果的な生息地の空間配置計画を探求することを目的とした。

シマフクロウの安定個体群が生息する地域を対象に,ロジスティック回帰分析により生息適地モデルを構築し,本種の生息適地の抽出に使用した。次に,保全策を講じる場所の配置や箇所数の異なる複数の保全シナリオ下での本種の分散を,動的分布モデルを扱うソフトウェアMigClimによって予測した。

解析の結果,本種の個体数増加の為には繁殖成功率増加につながる餌環境の改善に力を入れるべきであること,分布拡大の為には始めは現在生息域の隣接地域,後に生息地間地域を保全することが効果的であることが示された。同時に,実際に保全活動を行う際には,継続的なモニタリングにより情報収集に努め,アダプティブマネジメントの考えに基づいて柔軟にその後の対応を決めていくことの重要性も示された。本研究では,静的分布モデルと動的分布モデルを組み合わせて分布予測を行うことで,現状では分散・定着が困難な生息適地と将来分散・定着可能な生息適地の違いや分散・定着プロセスに保全策が及ぼす効果などを推定できた。このことは,種の分布に関する議論の幅を広げることができ,より効果的な保全策を考える上で重要である。


日本生態学会