| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-162 (Poster presentation)

絶滅危惧種カッコソウ局所個体群の遺伝構造と繁殖パフォーマンス

*有馬玖瑠美(京都大院・農), 大谷雅人(森林総研), 石井智陽, 寺内優美子, 井鷺裕司(京都大院・農)

カッコソウは、群馬県鳴神山及びその周辺地域にのみ生育する異型花柱性のクローナル植物である。その個体数は近年著しく減少しており、環境省第4次レッドリストにより絶滅危惧IA類に指定されている。また、効果的なポリネーターはマルハナバチであるがその結実率は極めて低いことが報告されており、有性生殖が十分に行われていないと考えられる。そこで本研究では、絶滅の危機に瀕しているカッコソウの繁殖パターンを把握するために、1)遺伝構造及び遺伝子流動の現状、2)花柱タイプと繁殖成功の関係を明らかにした。

鳴神山の全生育地33ヶ所から183ラメットの葉を採取し、結実が確認された8ヶ所から10ラメットの果実を採取した。マイクロサテライトマーカー6座を用いて、ジェネットの識別及び遺伝構造の解析を行い、種子に対しては親子判定を行った。

遺伝解析の結果、33ヶ所の生育地において30ジェネットが存在することが明らかになった。さらに、半径約2 km以内の限られた範囲に全生育地が存在しているにも関わらず、遺伝構造及び距離による隔離が認められた。種子の親子判定の結果、花粉の遺伝子流動は非常に狭い範囲内でのみ起こっていることが示唆された。これらの結果から、近距離にある生育地間でのみ遺伝子流動が起こることで、限られた分布域であっても遺伝構造が生じたと考えられる。

また、母親個体が短花柱花の場合は、母親個体が長花柱花の場合と比較して自殖率が有意に高かった。さらに他殖の場合は、母親個体が長花柱花・父親個体が短花柱花という組み合わせが極めて多く、交配の方向性に偏りが認められた。これらの結果から、他殖による種子生産を促進するためには、各生育地の花柱タイプに配慮した保全を行う必要があることが示唆された。


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