| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-191 (Poster presentation)

生体内元素分析を用いた陸奥湾産卵群マダラの個体群判別

*大宮慧子(弘大・農生),工藤誠也(岩大・農),三浦太智(産技セ),渡邉泉(農工大・農),東信行(弘大・農生)

マダラGadus macrocephalusは北太平洋沿岸に広く生息しており、日本では日本海と太平洋に分布している。日本海と太平洋の両海域に面する青森県においては極めて重要な漁業資源である。マダラは産卵期(12~3月)になると青森県陸奥湾湾口部に産卵のために来遊することが知られている。彼らのその後の回遊経路に関しては標識放流などにより,太平洋,日本海両海域に移動していることは認められているものの,サンプル数は極めて少なく,詳細は不明な点が多い。近年、生物の産地判別や移動履歴の推定に微量元素分析が利用されている。生体内の微量元素は個体の生息環境や餌の違いを強く反映するため、遺伝的な違いのない集団間の比較に有用である。本研究では、陸奥湾口に来遊したマダラがいずれの海域から来遊した個体であるかを生体内微量元素濃度の違いから推定した。推定には青森県沿岸3海域(日本海、太平洋、陸奥湾)などで捕獲された全長400-650mmのマダラを用いた。個体毎に解剖し、筋肉などの軟組織を溶液試料とした後、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて28元素を測定した。また水銀の濃度を、還元気化水銀測定装置を用いて測定した。測定によって得られた元素濃度をもとに統計解析を行った。その結果、日本海産と太平洋産のマダラの間において元素濃度の違いが見られ、特に水銀の濃度は両海域間で顕著に異なっていた。陸奥湾口の多くの個体は太平洋側の個体に近い元素濃度の値を示した。日本海産と太平洋産のマダラの元素濃度の違いによって両者を判別する回帰モデルを構築した。このモデルから、陸奥湾産卵群マダラの大部分が太平洋側から来遊したものと推定された。また、日本海のマダラよりも、太平洋のマダラは早い時期から来遊している可能性が示唆された。


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