| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-004 (Poster presentation)

標高帯における適応的浸透交雑

三村真紀子(玉川大・農)

浸透交雑は、有用な遺伝的変異を短期間に獲得するメカニズムの一つである。異所適応する近縁種との接触は、迅速な適応進化を可能にする遺伝資源へアクセスできる機会となるかもしれない。これまでの研究から、亜熱帯性キイチゴであるリュウキュウイチゴと温帯性キイチゴであるモミジイチゴは、気候変動によって接触と交雑を繰り返したことが分かっている。本研究では、屋久島において低標高に分布するリュウキュウイチゴと高標高に分布するモミジイチゴの交雑帯から採取した個体を用いて共通圃場実験を行い、遺伝的・形質的変異の浸透程度を検証した。東京都町田市における共通圃場実験の結果によると、低標高(〜100m)に分布するリュウキュウイチゴは、冬期(12月末)が到来しても半数以下の株しか休眠せず、低温による障害を受けていた。一方、屋久島において高標高(1000m〜)に分布するモミジイチゴは、おおよそ80%の株が成長を停止し、冬芽を形成した。リュウキュウイチゴにみられる常緑性が、現地の温暖な気候だけでなく、遺伝的にも制御されていることが示唆された。一方、総フェノール含有量においては、リュウキュウイチゴはモミジイチゴに比べて有意に高い値を示し、交雑個体が分布する中標高帯では、モミジイチゴよりもリュウキュウイチゴ寄りの形質を示した。交雑帯を通して、リュウキュウイチゴの形質がモミジイチゴに浸透していることが示唆された。この非対称的なパターンは、分子実験からも支持されている。


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