| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-053 (Poster presentation)

富雄川における可動堰の開閉による鳥類群集の変化

*石川裕貴, 澤畠拓夫(近畿大・農)

近年、都市環境への鳥類の進出事例が数多く報告され、都市に残された自然環境の重要性が再認識されている。しかし都市の緑地を利用する鳥類に比べ、都市河川を利用する鳥類の知見は乏しい。富雄川は奈良盆地を流れる都市河川であり、大半がコンクリート三面張りに改変されている。本河川には農業用水確保の為の可動堰が多数あり、農繁期に水深が深い湛水域が形成される。このような湛水の影響は魚類等に関して研究されているが、鳥類に関する研究は殆どない。本研究は富雄川の鳥類相と可動堰の開閉による変化が鳥類群集に及ぼす影響の解明を目的とした。可動堰が密集する中流部5.7kmで調査した。ルートセンサス法で観察した鳥類の種や場所を記録した。堰の開閉による影響は閉鎖時と開放時における湛水域と常浅域の個体数の差異で分析した。富雄川では44種の鳥類が観察された。これは奈良県産鳥類目録(2014)に記載される種の17%であり、内1種(アオシギ)は未記載種であった。有意差が見られたのは閉鎖時8種、開放時7種、共に見られたのは3種であった。本調査により本県で初観測されたアオシギは15都府県で稀少種とされる冬鳥または旅鳥である。観測された鳥類の内7種が奈良県版RDB(2006)に記載のある種である。このことから、都市河川である富雄川が稀少鳥類の越冬地や中継地として利用されることが明らかになった。可動堰による湛水はカワウに恩恵を齎したが、奈良県の絶滅危惧種に指定されたアオジを含む6種に負の影響を齎した。負の影響は閉鎖時のみならず開放時にも生じた。長期湛水によりヘドロが堆積し植生が未発達となる等の河川環境の大幅な改変が原因と推察される。以上から都市河川とはいえ地域の鳥類群集に重要な存在となっていること、可動堰による湛水は河川を利用する鳥類群集に少なからず影響を与えていると示された。


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