| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-088 (Poster presentation)

同所的に棲むヤマメとオショロコマの成熟サイズ :人為選択(ふ化放流)と自然選択(滝)の影響

*佐橋玄記(北大院), 森田健太郎(北水研)

表現型の個体群間変異は個体群間で異なる自然選択によって生じうる。また、人間活動に伴う人為選択も個体群間変異の要因となりうる。これらの選択圧は、同じ環境に棲む近縁種であっても、生活史が異なれば作用が同一とは限らない。

北海道の斜里川水系には複数の支流があり、サケ科魚類のヤマメとオショロコマが広く同所的に分布する。オショロコマは、全ての個体が生まれた川で一生を過ごす残留型になるのに対し、ヤマメの雄は、一部の個体が河川内で数年を過ごした後、海で索餌回遊を行う降海型になる。また、ヤマメでは降海型のみを親魚に用いたふ化放流が一部の支流で約80年に亘り行われている。さらに、斜里川中流部には、一部のヤマメ降海型のみが遡上可能な滝が存在する。よって、ヤマメでは、①放流魚は人為選択を受け、野生魚に比べて降海型になりやすいこと(≒残留型としての成熟サイズが大きくなる)、②滝上流の野生魚は自然選択を受け、滝下流の野生魚に比べて残留型になりやすいこと(≒成熟サイズが小さくなる)が予測される。一方、降海型が生じないオショロコマの成熟サイズは、滝の影響を受けないだろう。本研究では、斜里川の13支流で両種の雄の成熟サイズの変異を調べ、ふ化放流と滝の影響を検討した。

ヤマメ放流魚の成熟サイズは、野生魚に比べて大きかった。また、ヤマメ野生魚の成熟サイズは、滝下流の支流に比べ、滝上流の支流の方が小さかった。一方、オショロコマの成熟サイズは、滝の上下で変わらなかった。以上の結果から、人為選択(ふ化放流)と自然選択(滝)はヤマメの成熟サイズに作用し、ヤマメが海に行くか川に残るかの生活史戦略に影響することが示唆された。


日本生態学会