| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-097 (Poster presentation)

漁獲による性比の歪みと繁殖成功の低下

*千葉晋・三井あや (東京農大)

漁獲によって、成熟個体の性比(Adult Sex Ratio, ASR)は一方の性側へしばしば歪む。この不自然な性比の歪みは繁殖成功に大きな性差をもたらし、その結果、個体群の動態にも影響しうるはずだが、その詳細に関する研究例は乏しく、水産資源管理においてもほとんど考慮されていない。本研究では、繁殖期の直前に雌だけが漁獲される雄性先熟の性転換エビ(タラバエビ属ホッカイエビ)を例に、性比の歪みによる繁殖成功への影響を調べた。

3ヵ年の野外調査の結果、ASR(雄%)は、漁期前の成熟期では41%~61%(平均51%)だったが、漁期後の繁殖期には69%~86%(平均77%)に増加していた。繁殖期に雌が抱えていた受精卵の核DNAで父系解析を行い、ひと腹の受精に関わった雄の数から繁殖性比(Breeding Sex Ratio, BSR)を推定した。その結果、BSRはいずれの年もほぼ50%であり、この結果はBSRがASRの変化に単純に応じないこと、BSRが漁期前のASRに近いことを示している。次に、実験室内の高密度環境下でASRを操作し、BSRとの関係を調べた。その結果、ASRに応じてBSRは増加していたことから、ひと腹の父系数における個体数密度の影響が推察された。しかし、そのBSRの増加はASRの増加に対して緩やかであり、これは高密度でも1個体の雌が受容できる雄の数に制約があることを意味している。また、ひと腹に複数の父系があった場合でも、1個体の雄だけで受精率の大半を占めていた。つまり、漁獲による雄バイアスは雄の繁殖成功を大きく低下させると言える。なお、ASRに応じて雌の抱卵率も減少しており、この結果は雄バイアスにより雌の繁殖成功も低下することを示唆している。したがって、漁獲による不自然な性比の歪みは、繁殖成功の性差を広げる一方で、両性の繁殖成功を低下させる可能性があり、結果として個体群サイズの減少を起因しうる。


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