| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-099 (Poster presentation)

コバネイナゴは交尾において恐らく右利きである─バッタ科昆虫の交尾にみられる左右性

*藤山直之(山形大・理・生物), 今野浩道(北教大・旭川・生物), 大橋謙太郎(山形大・院・理工)

動物の形態や行動にみられる左右性は,平衡多型・共進化・種分化など,進化生態学的に重要な現象に関与しているという多くの報告がある。バッタ科昆虫の一部では,雄が雌にマウントした後,雄は雌の体軸に対し左あるいは右側から腹部末端をアプローチさせ雌の腹部末端との結合を図り,腹部が捻れた状態で交尾が成立する。本研究では,このような交尾行動を示すコバネイナゴ・サッポロフキバッタ・ハネナガフキバッタの3種を対象とし,交尾時に腹部を捻る向きが左利きあるいは右利きという性質を反映しているのかを,野外調査・室内実験・予備的な形態計測を通じて検討した。以下では,雄が左側からアプローチして成立した交尾を‘左向き’,右側からの場合を‘右向き’と表現する。

北海道旭川市で行った野外調査では,2種のフキバッタについては左および右向きの交尾ペアの出現頻度が1:1から有意に離れていなかった一方で,コバネイナゴの交尾は全て右向きで生じていた。コバネイナゴに関しては,山形県天童市において追加調査を行ったが,1例を除き全ての交尾が右向きだった。野外で3種のバッタ類にみられた交尾の向きに関する傾向は,旭川市の同じ集団を用いて行った室内交尾実験でも再現された。また,2種のフキバッタでは同じペアによる複数回の交尾を数例観察できたが,交尾ごとに左右の向きが変化した場合を含んでいた。さらに,野外交尾ペアを対象に,後脚腿節の長さと幅にみられる左右非対称性と交尾の向きとの関係を検討したが,いずれの種についても明瞭な傾向は検出されなかった。

以上の結果は,バッタ類の交尾の向きが外部形態以外の要因で決まっている可能性,フキバッタ類の交尾行動には一貫した左右性が存在しない可能性,および,コバネイナゴは交尾において‘右利き’であることを強く示唆している。


日本生態学会