| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-146 (Poster presentation)

小笠原諸島母島におけるオオバシマムラサキの複雑な遺伝構造と植栽計画への提言

*鈴木節子, 須貝杏子, 永光輝義(森林総研), 葉山佳代(おかん研), 加藤英寿(首都大・牧野標本館)

オオバシマムラサキは小笠原諸島の固有樹木種で、絶滅が危惧されるオガサワラシジミの主な食樹の1つである。オガサワラシジミの個体群回復のために、母島においてオオバシマムラサキを植栽する計画がある。しかし、母島のオオバシマムラサキは島内で表現型と遺伝子型に分化が生じており、無計画な植栽は本種の集団構造を攪乱する恐れがある。そのため、母島全体におけるオオバシマムラサキの形質変異と詳細な遺伝構造を明らかにし、攪乱を最小限に抑えることができる植栽方法を考察した。母島全体からみつけた445個体のオオバシマムラサキについて、緯度経度、葉の星状毛の有無、樹高を測定し、DNAを抽出した。また、92個体を対象に毎月開花量を調査した。核SSR16座の遺伝子型を用いたSTRUCTURE解析の結果、母島のオオバシマムラサキは5つの遺伝的クラスターに分けられた。それらのクラスターは地理的分布が違うだけでなく、生育環境も異なっていた。また、葉の星状毛の有無と開花期、樹高も違っていた。これらのクラスターは①葉は無毛・夏咲き・主に島の北側に分布、②葉は無毛・夏咲き・主に島の南側に分布、③葉は有毛・夏咲き・島の中部の稜線部に生育、④葉は有毛・秋咲き・通直な主幹をもち樹高が5m以上に達する・島の中部の日当たりの良い場所に生育、⑤葉は有毛・秋咲き・樹高が2m以下の株立ち状・島の北部と中部の乾燥した尾根に生育、という特徴を持っていた。なお、クラスター①②③は樹高が2-5mの個体が多かった。島の中部では①~④のクラスターが連続的に重なって分布していたのに対し、島の北部と南部はそれぞれ①、②のクラスターが優占していた。よって、中部での植栽についてはさらなる検討が必要だが、北部と南部においては優占するそれぞれのクラスターの個体を植栽することは可能だろう。


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