| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-185 (Poster presentation)

基本再生産数を起点とした作物病害虫の侵入リスク評価手順

*鈴木清樹,大藤泰雄(農研機構・中央農研)

外来生物の侵入リスクについては、群集生態学における生物多様性評価や数理モデルによる理論的解析など、活発な研究分野となっている。一方で、植物防疫の観点から、国内有用植物への病害虫リスクアナリシス(PRA)に対しても、生態学や理論疫学的な視点を踏まえた枠組み作りが急がれる。特に、詳細な個別研究事例を扱う学術研究とは異なり、多種多様な生活史や伝染環を有した病害虫一般に対する政策判断としての側面により、評価手順の画一性、簡便さ、論理的一貫性の担保などを十分に考慮する必要がある。そこで本発表では、国内で発生した作物病害虫のPRA評価手順を例に、その背景にある基本再生産数(R 0)を起点とした侵入種の定着に関する評価項目の策定について報告する。

まず、具体的な病害虫を例に病害虫研究者にブレーンストーミングを実施し、病害虫一般についての生活史特性や発生誘因などのリスク要因と成り得る項目の収集を行った。さらに、病害虫の侵入段階の評価基準および評価手順について、侵入種と宿主の確定、病害虫の伝染環ついての疫学モデルによる類型、入り込み先への経路、1シーズン内での初期増加、暴露被害の有無、侵入後の存続までの評価手順について、決定木を用いた意思決定モデルの構築を試みた。とくに初期増加の評価については、R 0を構成する疫学パラメータを細分化し、各パラメータに対するリスク要因を選定するとした。本手順ではR 0を数値的に推定する訳ではなく、事実上R 0=0となる場合(宿主やベクターの不在など)の選別、侵入種の初期増加と存続の可否の組合せによるクラス分類、さらに、既発生地域との環境・栽培条件の違いに注目したR 0の相対的な大小関係についての比較検討を行っている。これにより、病害虫の個体群動態に関する情報が不足している場合においても、一定のリスク評価が可能である。


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