| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S03-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

淡水生態系の自然再生とウナギの関係

吉田丈人(東京大)

ウナギの生息場所として重要な淡水生態系は劣化の著しい生態系であり、ウナギを含む多くの生物が絶滅危惧となっている。ウナギは最も栄養段階が高い魚種の1つであり、湖沼・河川・沿岸・外洋を大規模に回遊するが、これらの生態的特性はウナギ個体群の保全再生をより困難なものとしている。一方、その幅広い生息環境や下位栄養段階の存在はアンブレラ種の特徴であるほか、伝統的な食文化など人との関わりに古い歴史があることから、淡水生態系の自然再生にとってシンボル的な魚種といえる。

淡水生態系は、人間活動のさまざまな影響を受ける一方で、多くの生態系サービスを提供する。進行しつつある淡水生態系やその生物多様性の劣化は、社会経済にも影響を与えることから、その保全再生が国内外において重要な社会目標となっている。一方、近年の人口減少や少子高齢化にともない、淡水生態系の管理やそこでの営みを支える内水面漁業協同組合などでは、担い手不足の危機に瀕している。また、高度経済成長期に整備された治水施設などの社会インフラは老朽化しつつあり、厳しい財政状況のもと、維持管理や更新が問題となっている。このような社会経済情勢は淡水生態系の自然再生にも大きく影響すると予想される。

自然との共生や環境と調和した淡水生態系の管理が求められているが、未だ主流となるには程遠い。治水利水と環境の調和は、淡水生態系を重要な生息場所とするウナギにとっても大きな意義がある。最近、防災減災と生態系管理を両立させるものとして、生態系を基盤とした防災減災(Eco-DRR)が注目されている。生態系の本来の働きを理解し活用するなかで、幅広い生態系サービスを利用しようとするものである。生物多様性国家戦略や内水面漁業振興法などの政策が進むなか、Eco-DRRに沿った河川整備は、シンボルとしてのウナギの保全再生のみならず、淡水生態系の自然再生にとって大きな意義があると考えられる。


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