| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S04-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

デモグラフィーから見た群集中立性の再検討

大槻 久 (総研大・先導科学)・ 竹内 やよい (国環研)

群集の構成、特にその種多様性がどのように決定されているかを解き明かすことは群集生態学のみならず、種多様性の維持という保全生態学の観点からも重要である。Hubbellの群集の中立説(Hubbell 2001)は群集を構成する各種が競争に関して中立であるという、従来の生態学の常識からかけ離れた仮定から出発したにもかかわらず、種多様性の高い熱帯林群集の組成をよく説明したという点で衝撃的であった。ニッチの観点から言えば、この結果はニッチはそれほど重要でないと言っているに等しい。

他方、中立性の統計的棄却自体の難しさ自体が議論となることも多い。たとえばJanzen-Connell仮説が主張するように、森林群集には種特異的な植食者や病原体の存在による負の密度依存効果が存在すると予測され、実際に小さなスケールでは中立モデルよりも負の密度効果を勘案したモデルのほうがあてはまりが良いが、局所群集全体のスケールまで広げるとこの効果が平均化されてしまい、あたかも群集全体が中立に振る舞うように見えてしまうことが指摘されている(Jabot & Chave 2011).

そこで本発表では既存の中立性検定に関する問題点を紹介するとともに、経時データを用いた新しい中立性検定の手法と、この手法を応用した予備的結果について紹介したい。経時データとは群集をある特定の瞬間だけではなく、複数回調査して得られたデータのことであり、従来の検定で着目していた群集の定常的な組成のみならず、センサス間のダイナミックな群集動態に関する情報を得ることができる。この手法をBCIおよびパソの熱帯林群集に適用したところ、局所群集全体のスケールにおいても中立性を棄却することができた。


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