| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T03-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

寄生生物と宿主が作り出す種間相互作用と生物多様性

佐藤拓哉(神戸大院・理)

寄生生物は、宿主への影響を介して間接的に種間相互作用を改変・創出する。中でも、寄生生物は、宿主の形質を改変することにより、一般的な捕食者とは異なるやり方で、宿主と他の群集構成種との捕食-被食関係を変化させる。例えば、カリフォルニアの塩性湿地では、吸虫の一種に寄生されたカダヤシは、正常なカダヤシに比べて約30倍、終宿主の水鳥に捕食されやすくなる。また、ハリガネムシ類は、産卵場所への移動のためにカマドウマ類を河川に飛び込ませることで、間接的に河川性サケ科魚類とカマドウマ類の捕食-被食関係を創出している。

演者は、寄生生物の在・不在それぞれの条件下で捕食-被食関係の強度を実測している研究例を取りまとめ、宿主の形質改変が捕食-被食関係を量的・質的にどのように変化させるかを検討した。その結果、寄生生物は全体として、形質改変を受ける中間宿主と終宿主の間、および中間宿主とその他の捕食者の間の捕食強度を大きく高めていた。また、宿主の形質改変を介した捕食の強度は、寄生生物の分類群や形質改変の戦略と関連していた。一方、宿主の形質改変は、寄生生物の生活史スケジュールと関連して、時間的に集中して起こる例が多かった。このことは、寄生生物によって、捕食-被食関係の時間変動性が変化することを示唆する。

これらの結果と寄生生物の普遍性を実証する近年の研究例を踏まえると、寄生生物による宿主の形質改変は、捕食-被食関係の改変を介して、食物網を流れるエネルギーの強度や経路を規定する隠れた要因なのかもしれない。寄生生物による形質改変が群集生態学の重要課題とどのように関係し、またそれをどのように解決に導けるかを議論したい。


日本生態学会