| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T16-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

植物機能形質研究の歴史と動向

北島薫(京大・農)

植物生態学の歴史の最も初期から重要なテーマは、植物の地理的分布がどのように環境要因と関係しているか、また、その理由を知ることである。 そこで、環境適応や環境ストレスへの耐性と関連していると予測される植物の形質についての比較研究には長い歴史がある。植物は、低温、高温、日射量、乾燥、洪水、土壌重金属、また、虫害、病害、資源競争など多くの環境要因に適応や順応を示す。学問分野の動向としては、(1)このような個々の環境要因への適応に重要と考えられる個々の形質の具体的な評価 が研究の主流であった時期、(2)複数の形質と個体群動態特性の関係の研究が発展した時期、などを経て、(3)複数の研究報告を統合して機能形質の相関関係について大きな地理的範囲において一般化できる傾向を探る研究が盛んになった。さらに、(4)種を単位とする解析の換わりに機能形質を使って群集動態や生態系機能の解析する研究が近年注目されている。大陸や地球レベルでの植物と生態系のフィードバック関係、そして、それらを考慮しての気候変動の予測の重要性などが認識されることもあり、生物地理学的に異なるところでも一般化できる法則を探る鍵として、植物の機能形質研究への期待は高い。しかし、 葉面積乾重の比や材密度などの測定しやすく、多くの研究者が測定している形質によって説明がつくのは、群集動態や生態系機能のほんの一部分だ、という認識も高まっている。手法的には、種内変異の重要性に(再度)注目する研究も増えており、複数の機能形質を生長や生存のプロセスモデルに組み込んでいく研究も始まっている。さらに、今後、機能形質研究が発展する方向としては、植物生理学的に重要だが測定に手間と時間がかかる光合成と呼吸のバランスの環境変動への反応、貯蔵エネルギーや栄養塩類の意義を組み入れた研究なども挙げられよう。


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