| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T17-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

希少鳥類保全の生態学的アプローチ-奄美大島のオオトラツグミを例に-

水田拓(環境省奄美野生生物保護センター)

ある希少種を保全する場合、どのような方策が有効だろうか。対象種の個体数が極端に少ない、あるいは近い将来極端に少なくなると予測されるなら、飼育下での繁殖を検討しなくてはならないだろう。ある程度の個体がいる場合は、自然状態でこれ以上数が減らないよう保護区を設定するなどの対策が重要である。すぐさま絶滅する危険は少ないと考えられるほど個体群が安定しているなら、保全策はモニタリングを継続する程度にとどめ、余った労力を他の希少種の対策に回すという選択肢も考えるべきかもしれない。

飼育下繁殖の遂行や保護区の設定、保全策の是非の判断などといった意思決定は、いずれも社会の合意を踏まえた上で行政が取り組むべき課題であり、ほとんどの場合、生態学者が個人で対処できるものではない。そしてそれらの意思決定は、時として生態学的な合理性よりも社会的な制約に重きを置いてなされることがある。具体的な保全策を実行する際に、生態学者の貢献はあまり期待されていないのだろうか。

もちろんそんなことはない。どのような意思決定をするにしても、まず対象種の個体数を見積もることは必須である。飼育下繁殖に取り組むなら採食や繁殖の生態を知ることが重要だし、保護区の設定には好適な生息環境の把握が不可欠である。どの希少種にどれだけ投資するかという問題も、生態学的な知見に基づいて保全の緊急性を客観的に比較することで検討されるべきであろう。生態学者には、意思決定のための判断材料を提供し、妥当な保全策を提案する使命がある。

固有種が多く、その多くが絶滅の危機に瀕している南西諸島でも、さまざまな種に対して保全策がとられている。ここでは、奄美大島だけに生息するオオトラツグミを例に、生態学的な調査とそれに基づいた保全の取り組みについて紹介する。


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