| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T19-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

林業セクター・地域住民・生物多様性の厄介な関係:生物多様性便益の積極的な利用へ向けて

神崎護 (京都大学農学研究科)

生物多様性保全のために設定される保護林の多くは,林業利用できない山岳地域にあり,最も生物多様性の高い低地林や低山地林はほとんどが林業利用されているのが現状である.このため,熱帯林の生物多様性保全にはこのような生産林の保全がきわめて重要となる.従来,林業セクターは生物多様性を脅かす存在として非難されてきたが,熱帯の天然林における択伐林業においても生産持続性の確保,生物多様性の保全,地域社会との共存といった基準をクリアすることが求められ,国際的な認証制度もこれらの基準を重視している.一方,択伐天然林とその周辺の地域社会との間には,往々にして利益相反の関係が生じる.特に焼畑農民と林業セクターの共存はきわめて難しい.地域社会では生物多様性を資源として活用して,伝統的な非木材林産物が生業基盤の重要な要素となってきた.しかし,このような伝統的な非木材林産物の利用が林業セクターの活動によって制約を受け,森林自体が囲い込まれてしまい,地域住民によるアクセスが不可能となるようなケースもみられる.本発表では,ミャンマーのチーク択伐天然林やインドネシアのフタバガキ択伐天然林での事例をもとに,森林資源が重層的な資源であり異なるセクターが協調的に生物多様性を活用することで,相乗的な効果が得られる可能性を論じる.そして,林業セクター・地域社会・生物多様性の3者間の共存的な関係の確立が,モノカルチャー・プランテーションへの土地利用転換を防ぐ防波堤としての役割を果たして,熱帯林保全・生物多様性保全の有効な仕組みとして機能することを主張したい.


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