| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-07 (Oral presentation)

植物概日時計の季節変化への同調メカニズムとその適応的意義

*大原隆之(北大院・環境),関元秀(九大・工),Webb A.A.R.(Cambridge Univ.),佐竹暁子(九大・理)

植物は,1日または1年単位で起きる環境の様々な変化に直接曝される.そのような状況でも成長を続けるためには,環境変化に適切に対応して糖代謝を調節することが重要である.光合成により生成される炭素資源のうち,デンプンは葉緑体中に貯蔵することが可能であり,特に光合成の出来ない夜間に成長を維持するうえで重要である.そのデンプンの昼間の蓄積と夜間の減少は,ともに一定の傾きで起こる(つまり線形である)ことが知られている.さらには,日長の変化に対応して,増加と減少の傾きが変化する.近年の研究から,糖代謝のコントロールには,自律的な生物リズムの生成機構である概日時計が重要な役割を果たしていることがわかってきた.一方で,概日時計も,特にショ糖代謝の影響を受けることがわかっている.

本研究では,この概日時計と糖代謝の相互作用を数理モデル化し,デンプン代謝に見られる日長変化への適応的な応答の背後にあるメカニズムを調べた.はじめに,モデル式にもとづいて,デンプン代謝の線形性を達成するには,双曲線型のデンプン分解速度が必要であることを示す.さらに,数値シミュレーションによって,そのような形の分解速度を持つことで,日長が突然変化した場合にも,夜の終わりにデンプンが枯渇しないように分解が調節されることがわかった.最後に,概日時計がショ糖刺激に応答するとした場合に限り,昼間のデンプン蓄積が,日長に適した速度に調節されることを示す.これらの結果から,植物が環境変化に適応するために,概日時計のショ糖シグナルへの応答経路を進化させてきたことが示唆される.


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