| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-08 (Oral presentation)

野生トキの群れと単独での行動の比較

*油田照秋,中津弘,永田尚志 (新大・CTER)

動物が集団で行動する機能の一つに、捕食者への警戒行動の分散とそれによる餌発見・収集効率の向上があげられる。群れを形成する動物は、多くの場合単独よりも複数(少数よりも多数)でいる時の方が一個体あたりの警戒行動が少なくなり、その分採餌行動に多くの時間を割くことができると予想される。再導入による野生復帰を目指しているトキも繁殖期を除く長い期間を基本的に複数個体で行動する。しかし、群れのサイズや構成は非常に変動的で単独から時に20羽以上の群れで行動することもあり、群れ行動の機能がはっきりしない。また、これまでに野外定着を目指す再導入動物の群れ行動の重要性を検証した例は少ない。そこで本研究は、野生トキの採餌行動を観察し、単位時間における採餌行動の割合や警戒行動の頻度などから、トキの群れ行動の機能と重要性を検証した。

調査は主に佐渡市国仲平野にて2015年に行い、特に6・9月に新たに放鳥され既存個体の群れに合流する過程の個体を対象にした。地上に降りている個体を観察し、足環による個体識別をした後、3分間に観察された行動(採餌、警戒、歩行、休息など)の回数と時間を記録した。また、群れサイズ、餌の飲み込み回数なども同時に記録した。その結果、群れサイズと採餌行動(採餌時間、飲み込み回数)には、相関関係が見られなかったが、警戒行動は群れサイズに強く影響され、特に単独でいる時に周りを見渡す警戒頻度が多いことが分かった。

今回の結果で、放鳥トキは群れで行動することにより、一個体あたりの警戒行動を減らせる一方、それは必ずしも採餌行動の増加を意味するものではないことが示唆された。警戒行動の削減は、採餌行動以外にも休息や他個体との交流、繁殖行動の増加など様々な利益が挙げられ群れ行動の重要な機能の一つと考えられる。トキの野生復帰を成功させるには、放鳥個体がいち早く既存の群れに合流することが重要ということが示唆された。


日本生態学会