| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-12 (Oral presentation)

木登りカタツムリが木に登らないとどうなるのか?

佐伯いく代*(筑波大), 丹羽慈(自然研), 長田典之(北大), 兵藤不二夫(岡山大), 太田民久(地球研), 大石善隆(北大),日浦勉(北大)

樹冠は、多くの野生生物にとって重要なハビタットである。しかし、樹冠に生きる生物が、なぜ木の上を生息空間として選択しているのかについては、様々な推測が可能であるものの、実証例が乏しい。そこで本研究では、樹上性カタツムリであるサッポロマイマイを対象に、野生生物が樹上をハビタットとして選択する際の生態学的理由を明らかにすることを目的とした。具体的には、本種が樹上で生活する夏季に、木に登ることができないよう地表に糸で固定した個体と、樹上に固定した個体との生存率を比較し、樹上にいるほうが生存に有利ではないかという仮説を検証した。また地表のサッポロマイマイには、直径20cm程度のザルを地表1cmの高さで固定して覆った「ザル有り区」と、覆いをしない「ザル無し区」の2つの実験区を設けた。実験は、5本の樹木にそれぞれ、「樹上区」、「地表ザル有り区」、「地表ザル無し区」を設置し、1区あたり8個体ずつ、計120個体を用いて実施した。その結果、約10日後の生存率は、樹上区が最も高く(89%)、地表ザル有り区(56%)、地表ザル無し区(40%)の順で低くなった。実験は秋季にも行い、2回目も樹上区(95%)、地表ザル有り区(80%)、地表ザル無し区(75%)の順であった。赤外線自動センサーカメラを設置したところ、ザル無し区の個体は、エゾタヌキやネズミ類に捕食されていた。ザル有り区はこれらの動物からの捕食の影響を排除し、主に地表徘徊性甲虫や寄生バエによる捕食の影響をみるために設置したが、ザル無し区と同様、樹上区よりも生存率は低かった。これらの結果から、サッポロマイマイが樹上に生息することは、捕食者から逃れ、生存率を高めるために有効であることが推察された。


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