| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-14 (Oral presentation)

ギンメッキゴミグモのメスはなぜ配偶相手を選ばないか?

*中田兼介(京都女子大学),繁宮悠介(長崎総科大・総合情報)

配偶者選択を行いより良いパートナーと繁殖を行うことは、適応度上昇に寄与する重要な性質であると考えられる。そして、この効果は生涯に持つ配偶相手の数が少ないほど大きくなってくるだろう。

さて、メスの交尾器が交尾後に破壊され、そのことにより再交尾能力が失われるという現象が、複数の円網性クモで近年発見された。交尾器の破壊はメスの最初の交尾時に起こることが多く、これらの種のメスは生涯で1個体のオスのみを配偶相手に持つことになる。

このようなクモの一種であるギンメッキゴミグモCyclosa argenteoalbaでは交尾後の交尾器破壊は90%の高率で生じている。本種では、オスがメスの網に張った交尾糸を弾いて求愛を行う。これに対してメスは必ず応え、交尾器の状態に関わらず交尾を試みる。このことは、本種のメスは、交尾の機会は生涯で一度しかないにもかかわらず、配偶者選択を行っていないことを示している。このような性質が進化する可能性の一つとして、両性の遭遇機会が低いためにメスが配偶者選択を行うと生涯未交尾になるリスクが高いことが考えられる。

そこで本研究では、メスの交尾器の状態を観察することでその交尾経験を非侵襲的に知ることができるという本種の特徴を利用して、本種の野外における未交尾メスの比率の推定を試みた。本種は世代時間が2ヶ月程度で年2-3化である。このため、月によって未交尾メスの比率は0%から60%程度と大きく変動した。一方、成体オスの個体群への参加が見られなくなった時期でも10-30%程度のメスが未交尾のままでいたことから、本種ではオスメスの遭遇頻度が低く生涯未交尾のままで終わるリスクが無視できないことが示唆された。このことは、メスが交尾器破壊を受け入れる理由とも関連していると考えられる。


日本生態学会