| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-22 (Oral presentation)

シミュレーションと系統解析から探る、淡水魚の朝鮮半島からの侵入と拡散

*谷口昇志(東京大・農), 岡崎登志夫(東京大・院農学生命科学), 田祥麟(祥明女子大學), 岸野洋久(東京大・院農学生命科学)

日本産淡水魚の分布形成過程には、未解明の部分が多く残されている。その主たる理由として、日本国外のデータとの比較検討が充分に成されていないこと、分布変遷の推定に必要な手法が開発されていないことの2点があげられる。

本研究は、日本産淡水魚の分布形成過程を網羅的に解明することを最終目的としたものである。今回は、極東アジア全域における巨視的な分布変遷の様子をつかみ、統計的に検証可能な方法でモデル化することを目的に以下の解析を行った。

1. 系統解析と仮説の提示

日本と朝鮮半島にまたがって分布するカワムツ、さらに中国大陸まで分布域が広がるタカハヤ、メダカの3種を対象として系統解析した。その結果、タカハヤとカワムツについては朝鮮半島から日本への侵入が示された。メダカについては、朝鮮半島からの直接の侵入はないものの、祖先が中国大陸南部に分布していたことが示された。そこで、演者らは「日本列島が多くの淡水魚の分布拡大の行き止まりになっており、侵入個体群が在来個体群を置き換える」という仮説に基づき解析を進めた。

2. シミュレーションによる仮説の検証

日本列島の中部以西に一様に分布するカワムツをモデルとして、朝鮮半島からの侵入個体群が在来個体群を置き換えるシミュレーションを開発した。侵入個体群が在来個体群を置き換える確率、移動する速度をパラメータで表現し、パラメータの値と実際の分布との適合を評価した。その結果、侵入個体群が在来個体群よりも適応度が高く優位であるとしたモデルが、両者の適応度が等しいとしたモデルよりも再現性が高かった。このことから、侵入個体群が在来個体群を置き換えるとの仮説の妥当性が示唆された。


日本生態学会