| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-12 (Oral presentation)

固有属種アニジマイナゴの生態と系統保存技術の開発

*苅部治紀, 森英章(神奈川県立博物館,自然環境研究センター)

アニジマイナゴは2011年に新属新種として記載されたばかりの小笠原諸島固有のイナゴである。本種は小面積の無人島2島の森林環境のみで生息が確認されており、海洋島独自の生態の進化を遂げている可能性がある。一方で、2013年以降、生息地の1島である兄島において外来は虫類グリーンアノールの侵入と拡大が確認されており、今後絶滅の危機に陥る可能性がある。そこで、生息域内における生態観察と、生息域外における飼育試験により、本種の特殊な生活史を解明するとともに、系統保存のための技術開発を行った。

本種の生態は非常に独特なものであった。イナゴでありながら草原では見られず、幼虫、成虫ともに乾性低木林のシマイスノキ群落に限定して見られる。そして、食餌植物は群落に豊富に存在する樹木の葉のみであった。どの成長段階においてもシマイスノキのみしか食さず、他の植物は草本も、木本も一切齧らない。一方、採餌時以外は群落内に点在するタコノキの葉鞘の中で休息していることが多い。飼育下においても日中はシマイスノキを摂食しに出かけるが、夜間にはタコノキに移動して葉上で休息する。野外のタコノキの葉鞘内には多くの糞が確認できることから、休息場所と採餌場所を往来する行動習性を持つ可能性がある。

上記の成果を活用することにより、これまで困難とされていた飼育技術の開発に成功した。飼育下では孵化から4か月程度で成虫となり、1年中の繁殖をさせることができる。野外においても春から秋まで広い時期に渡って幼虫、成虫がともに確認されており、冬期の低温時のみ繁殖しないものの、年多化性と考えられる。現在まで2年以上継続して累代飼育をすることができており、交尾回数の制限、孵化直後の幼虫の行動制限において、飼育下特有の課題がいくつか残るものの、特殊な生態の解明とともにアニジマイナゴの系統保存技術の確立を成功させたといえるだろう。


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