| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I3-30 (Oral presentation)

低線量被ばくがアカネズミ精巣における酸化ストレス応答に及ぼす影響

*石庭寛子, 岡野司, 大沼学(国環研), 遠藤大二(酪農大・獣), 吉岡明良, 玉置雅紀(国環研)

2011年に発生した福島第一原発事故によって環境中に放出された放射性核物質は10~50万TBqと推定されている(UNSCEAR,2014)。原発周辺では広域に基準値以上の放射線量が検出され、そのような地域に生息する生物への影響が懸念されている。福島で観察されるような総被ばく線量200mSv以下の低線量被ばくにおいて憂慮すべき影響に、酸化ストレスによるDNA損傷が誘発する突然変異が挙げられる。この突然変異が生殖細胞で起こり、且つそれらが子孫に引き継がれた場合、後代に予期せぬ遺伝子変異を蓄積させる可能性がある。

本研究では、森林に生息するアカネズミ(Apodemus speciosus)の雄性生殖器官である精巣を対象に、低線量放射線による酸化ストレス応答について評価した。調査は試験区として福島県内で年間積算線量が20mSv以上の区域を、対照区として青森県および富山県と設定し、2012年から14年まで本種の繁殖期である夏季に毎年捕獲を行った。体内のセシウム蓄積量および環境放射線量から精巣への被ばく線量を推定したところ、試験区のアカネズミの総被ばく線量は2012年に平均0.55mGy/day、13, 14年は0.28, 0.26mGy/dayを示し、ICRPが提示する放射線影響の判断目安である誘導考慮参考レベル(0.1~1.0mGy/day)に達していた。DNAの酸化レベルを示す8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の蓄積、およびDNA修復酵素遺伝子(OGG1)の発現量は、2012年の試験区で有意に高い値を示した。

これらのことから、比較的高い被ばく線量を受けたアカネズミは生殖器官においてDNAの酸化が認められる一方、生物が備える防御機構であるDNA損傷を修復する機能も正常に働いていることが示唆された。


日本生態学会