| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-12 (Oral presentation)

日本の農業生態系での栄養塩類循環と問題点

*三島慎一郎(農環研)

食飼料生産においては堆肥などと共に化学肥料の形で窒素(N)・リン(P)・カリウム(K)を適切に施用することが、持続的で充分な作物収量を得るために必要である。一方で堆肥・化学肥料を過剰に施用すれば、硝酸性窒素や土壌流亡に伴うリンの流出による水環境や温室効果ガスの一酸化二窒素発生を促進し、また牧草や飼料作物の質を損なうことにもなる。本研究では、食飼料生産に使われる堆肥・化学肥料によるN・P・Kの利用と、畜産において国内で自給される飼料と輸入飼料から求められる生産過程でのふん尿排泄量、貯留・堆肥化物の利用量から、国内での循環的なN・P・K利用と農畜産物生産の状況を見るための簡易なモデルを提示した。モデルの中でのN・P・Kフローは、2008年から2012年まで農水省によりおこわなわれた「土壌由来温室効果ガス・土壌炭素調査事業」の農家アンケート調査の個票を元に求めた。対象年は2010年とした。以下、結果を窒素量について記する。2010年における食飼料生産量は546Ggで、うち畜産物は146Gg、家畜飼料(牧草・飼料用トウモロコシ等)は233Ggを占める。家畜は760Ggの輸入飼料と併せて993Ggを消費し、785Ggのふん尿を排泄する。さらに畜産物を差し引いた余りの62Ggは内臓など消費されない部分と考えられる。貯留・堆肥化して農地に投入されるのは、59Ggであった。排泄と利用のギャップである726Ggは貯留・堆肥化中の散逸、浄化処理、燃料としての焼却が行き先として存在するが詳細は不明である。化学肥料は342Ggが投入されていた。同年の化学肥料の内需は410Ggであり、20%ほどの過小評価となっていた。化学肥料と堆肥により、401Ggが農地に供給される。過剰は1Ggであった。現状の計算では投入と持ち出しが全体ではバランスしていることになるが、過去の推計から考えると非常に少ない過剰であり、精査していく必要がある。


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