| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-004 (Poster presentation)

風穴地における高山植物の定着要因―局所環境が与える影響―

*和久井彬実(北大・農),末吉正尚(自然共生研究セ),下川部歩真(北海道庁),工藤岳(北大院・地球環境),森本淳子(北大院・農),中村太士(北大院・農)

高山植物の生育適地は低標高域にも局所的に分布しており、その一つとして風穴地が知られている。風穴地に生育する高山植物は、固有の遺伝子型を有する場合が多く、このような局所個体群の存在は高山植物の遺伝的多様性維持、攪乱による絶滅リスクの軽減において重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、風穴地における高山植物の定着にどのような環境要因が重要であるかは未解明である。本研究では、複数の風穴地において植生と環境要因の調査・比較を行い、高山植物の定着する風穴地の環境特性を明らかにした。また、その結果を踏まえて、風穴地における高山植物群落の保全について考察した。

北海道遠軽町に分布する26か所の風穴地と、風穴地外の対照区4か所(標高300~700m)を対象に、傾向化除去対応分析・正準対応分析を用いた群集解析により植生と環境要因の関係を序列化した。また、一般化線形モデルを用いたモデル選択により、各調査区における高山植物種ごとの出現頻度と環境要因の関係を解析した。

群集解析の結果、6~10月の日平均積算地温、および土壌pHの低い風穴地ほど、高山植物を主とする単純な植生が成立する傾向がみられた。モデル選択の結果、ほぼ全ての高山植物種の定着に土壌pHが有意な負の効果を示し、種によっては積算地温、リター厚、開空度なども重要な要因であることが示唆された。風穴地においては、低地温や周囲の森林からの有機物供給により土壌が酸性化し、低地性植物の定着が制限されることが、高山植物の定着に貢献していると考えられる。従って、風穴地の高山植物群落を保全するためには、風穴地を維持すると同時に周囲の森林環境を保全することが重要であろう。


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