| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-090 (Poster presentation)

重力が左右する生物個体呼吸スケーリング

*相澤拓(山形大・農),芳士戸啓(山形大・農),王莫非(山形大・農),森茂太(山形大・農)

個体呼吸速度は個体サイズに伴い変化すると考えられており、これを定式化したMax Kleiber法則では「個体呼吸は個体重量の3/4乗倍に比例」とされる。しかし、生物がこの法則に従うメカニズムは十分に解明されておらず、様々な議論が続いている。この法則を「空間を満たすフラクタル関数に従う分枝構造」から理論的に説明したものにWBEモデル(West et al.1997)があり、その背景には重力環境への適応があると指摘されているが、十分な証拠が無いのが現状である。

本研究では、【1】浮力によって重力の影響が陸上植物と異なる沈水(維管束)植物(1種、31個体)、【2】陸上植物と系統的に全く異なるが、陸上植物と同じ重力環境にあり、重力感知能力をもつ担子菌類子実体(4種、62子実体)、【3】重力環境下の陸上維管束植物(実生~大木まで約500個体、個体全体の実測値、一部未発表)、これら【1、2】を実測し【3】の従来のデータと比較した。

その結果、沈水植物のセキショウモでは、個体呼吸はほぼ個体重量に比例していた。一方、同じ重力環境下にある陸上植物と担子菌類子実体では、両者ともに呼吸はそれぞれの重量の0.8乗倍(対数軸上の傾き)に比例しており、同じ重量では子実体の方が植物よりも呼吸は高かった。

従来、Metabolic Ecologyではサイズに応じて変化する個体呼吸の制御は、葉や維管束など器官の形態による理論的な議論が中心に行われてきた。しかし、同重力環境で生育する子実体と陸上植物が同じ傾き0.8であり、違う重力環境下で生育する沈水植物と陸上植物では異なった。従来の理論に反し、生物個体呼吸の制御は、「空間を満たすフラクタル関数に従う分枝構造」や系統などよりも、重力環境対抗して軸方向に成長するかどうかが植物の呼吸速度を左右する要因の一つかもしれない。


日本生態学会