| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-155 (Poster presentation)

形態・生態・遺伝から考えるヤブツバキとユキツバキの種分化

*三浦弘毅(新潟大・自),上野真義(森林総研),阿部晴恵(新潟大・FC)

種分化とは生殖的な不和合性が進化することと考えられている(Mayr 1942)。日本に分布するヤブツバキとユキツバキの2種は、花形態で識別できると言われ(石沢 2005 他)、また葉緑体DNAでも識別が可能である(Tateishi et al. 2007)。しかし、両種は雑種を形成することが知られており(桐野 1960 他)、研究者でも同種であるのか意見が分かれる(石沢 2003)。そこで本研究では、形態(花と葉)、生態(花粉媒介者)、遺伝(葉緑体DNA)を比較することで、種分化の程度を明らかにし、種分化に至る背景を明らかにすることを目的とした。

研究に使用した花と葉およびDNAはヤブツバキ分布域とユキツバキ分布域でそれぞれ採取した。形態において花はおしべや花弁の大きさ等を計測し、また花弁色と花糸色についても測定を行った。葉は下皮組織の有無を観察した。花粉媒介者(訪問者)の調査はヤブツバキ3地点、ユキツバキ4地点において定点観察で鳥類を目視観察し、ラインセンサスで昆虫類の採取調査を行った。遺伝解析は葉からDNAを抽出し葉緑体SSRの解析を行った。

形態調査の結果、ヤブツバキ分布域とユキツバキ分布域で大きな違いが見られた。花粉媒介者の調査では、主要な花粉媒介者はヤブツバキで鳥類、ユキツバキで昆虫類であった。遺伝解析の結果、ツバキのcpDNAは大きくヤブツバキ分布域とユキツバキ分布域の2つのクラスターに分けられた。これらのことから、両種は生殖隔離が起きており、別種である可能性が高いことが示唆された。また、ハプロタイプネットワーク解析の結果、ヤブツバキは氷期に分布を南下させ、間氷期に北上させた。ハプロタイプ多様度を比較すると、ヤブツバキとユキツバキでは違いがないことから、最終氷期より前に両種が分化した可能性が示唆された。


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