| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-159 (Poster presentation)

イカダモにみられる二段階の可塑的防衛とその生態学的意義

*櫻澤 孝佑,吉田 丈人(東大・総合文化)

同一の遺伝子型でありながら環境に応じて表現型を変化させる生物の性質を表現型可塑性という。植物などでは形態防衛や化学防衛と言った複数の防衛形質を持つことはよく知られているが、そのような複数の防衛形質の使い分けの意義を調べた研究は少ない。本研究では、二種類の防衛形質を持つイカダモ株を用いて、二種の防衛形質のトレードオフ関係について調べた。

淡水に住む藻類の一種であるイカダモは、捕食者であるミジンコやワムシの出すカイロモンに反応して、可塑的に群体(細胞が整然とイカダ状に連なった状態)を形成する。群体形成の可塑性のコストとベネフィットに関しては、成長速度、食べられにくさ、沈降速度の要素が考慮されてきた。先行研究によると、単細胞体と群体の間には成長速度の差が見られず、沈降速度がコストとなっていることが示唆されているが、これらの形態について成長速度でコストが見られる報告もある。

本研究では、従来の研究でよく知られている群体形成のみならず、細胞集塊(細胞がランダムに組み合わさった状態で、群体よりも大きい形態)も形成するイカダモ株を用いた。この株は、単細胞の形態に加えて、群体と細胞集塊の二つの防衛形態を持っている。これら三種の形態について、成長速度、沈降速度、大きさの異なる二種の捕食者に対する食われにくさを測定し、二種類の防衛形質のコストとベネフィットを調べた。その結果、細胞集塊はより大きな捕食者に対しても効果的である代わりに、沈降速度が著しく増加するコストがあった。また、細胞集塊形成には成長速度が低くなるコストがかかっていることも明らかになった。これらの結果は、細胞集塊形成がハイリスクハイリターン型の誘導防衛であることを示唆しており、複数の形質の組み合わせによって、より複雑な適応動態が存在することが予測された。


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