| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-160 (Poster presentation)

長野県深見池のミジンコに見られる繁殖戦略の系統間比較

*小田切悠,永野真理子,吉田丈人(東大・総合文化)

日本国内に生息するミジンコ(Daphnia pulex)は、北米由来のたった4個体からクローン繁殖した4つの異なる遺伝系統(JPN1〜4)に分けられ、それらの生息が確認された35湖沼のうち6湖沼でのみ異なる2系統が共存し、このうち5湖沼ではJPN1とJPN2が共存していることが、先行研究により明らかになっている。別の時期に日本に侵入してきたと考えられているJPN1とJPN2の2系統が広く分布しているにも関わらず、5湖沼に限定して共存がみられることから、2系統は広く分散したが多くの場合は1系統のみが生残った可能性が高い。しかし、なぜ限られた湖沼でのみこの2系統が共存できているのかは不明なままである。

一般にミジンコの生活環は2つのフェーズからなっており、良い環境条件の場合は急速な増殖が可能な無性生殖を行い、悪い環境では休眠卵を産生する有性生殖を行う。しかし、日本のD. pulexは、絶対単為生殖という無性生殖により休眠卵を産生する系統であり、有性生殖をおこなわない。オスの生産も確認されているが、メスは無性生殖でのみ休眠卵を産生することがわかっており、絶対単為生殖の系統しかいない日本国内では、オスの生産はコストになると考えられる。先行研究は、JPN1はオスの生産が確認されているが、JPN2はオスを生産しないと報告していることから、JPN1に比べJPN2の方がオス生産のコストなしに休眠卵を産生できると言える。しかし、2系統の共存は系統間にトレードオフ関係の存在を予測させるため、JPN2が休眠卵を産生するフェーズで有利であるのに対し、単為増殖のフェーズではJPN1が有利であるトレードオフ関係があるという仮説を立てた。この仮説を明らかにするために、2系統の共存が確認されている長野県深見池から2系統を採集し、異なる環境条件における2系統の生活環の変化について評価する実験を行っている。


日本生態学会