| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-237 (Poster presentation)

安定同位体比分析によるヒグマのトウモロコシ利用の検証とその個体差を決める要因の解明

*秦彩夏(帯畜大),高田まゆら(東京大),深澤圭太(国環研),中下留美子(森林総研),押田龍夫(帯畜大),石橋悠樹(酪農学園大),佐藤喜和(酪農学園大)

北海道では農業被害に伴い毎年多くのヒグマが駆除されている.農作物を利用するヒグマ個体は駆除される確率が高いと考えられるため,これらの行動パターンや行動スケールの把握は駆除が地域個体群の存続可能性に影響を及ぼすかを知る一助になるだろう.本研究では北海道東部に生息するヒグマ地域個体群を対象に,主な被害農作物であるトウモロコシに注目し各個体の食性履歴を体毛の安定同位体比から明らかにした.次にδ13C値と体毛採取地点から農地への近づきやすさとの関係を検討することで,農地付近に生息する個体ほどトウモロコシを利用した可能性が高いかを検証した.

2011~2015年のトウモロコシ非結実期にヘアトラップ等により当該地域個体群の中心部である山地から農地付近にかけてヒグマ体毛を採集しDNA分析を行った結果,30個体を識別した(オス19個体,メス11個体).体毛の安定同位体比分析を行った結果,δ13C値は個体間で大きく異なりトウモロコシを利用した可能性に個体差があると考えられた.δ13C値と体毛採取地点から農地への近づきやすさとの関係を検証した結果,メスのみこれら2者の関係が認められたため農地付近に生息するメス個体ほどトウモロコシを利用した可能性が高く,その可能性は体毛採取地点の周囲3~4km以内に分布する農地の影響を受けると考えられた.一方オスでは両者の関係を統計的に検討できなかったが,トウモロコシを利用したと考えられるオス個体は山地にも農地付近にも生息していた.そのためトウモロコシ非結実期に山地に生息しているオス個体であっても結実期には農地に移動し駆除される可能性が示唆され,農地周辺におけるオス個体の駆除は個体群全体に影響を与える可能性が考えられた.


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