| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-239 (Poster presentation)

成体越冬は種内競争に有利か? - ハリナガミジンコ個体群の遺伝構造応答による解析 -

柳沼 康平*東北大学理学部生物科, 相川 奈津美 東北大学院生命科学研究科, 牧野 渡 東北大学院生命科学研究科, 占部 城太郎 東北大学院生命科学研究科

山形県畑谷大沼に出現するハリナガミジンコ(Daphnia dentifera × D. galeata complex)集団は、2つの隠蔽個体群、すなわち通年単為生殖で繁殖し、冬期も浮遊個体として過ごす遺伝的多様性の低い集団(越年個体群)と、秋には浮遊個体が見られなくなり、有性生殖によって生産される休眠卵で越冬する遺伝的に多様な集団(休眠個体群)により構成されている。休眠個体群は種内競争が激化しても、休眠卵生産することで翌年以後の個体群を維持することが出来る。したがって、2つの隠蔽個体群の1つの池での存続は、越年個体群が休眠個体群よりも種内競争に優位であることを示唆している。実際、春先には休眠卵由来の個体は孵化〜成熟を経て繁殖するのに対し、越年個体の多くは成体であるため直に単為生殖により繁殖することが出来る。しかし畑谷大沼では、秋期以後は越年個体群だけになるものの、春〜夏期は休眠個体群がむしろ量的に多数を占める。なぜ、種内競争のうえで優位と期待される越年個体群は春〜夏期に休眠個体群を凌駕出来ないのだろうか。もし越年個体が種内競争で優位ならば、越年個体がいると休眠個体群は個体群密度や遺伝的多様性が低下するはずである。

この可能性を検証するために、本研究では畑谷大沼のハリナガミジンンコ集団を対象に、休眠卵由来の個体と越年個体を用いたバトルロイヤル型の競争実験を行った。具体的には、10L容器に休眠卵由来の30個体を入れた対照区とそれに越冬個体を加えた実験区を5繰り返しで作成し、45日間観察して個体群密度と遺伝的多様性を解析した。

本発表では、隠蔽個体群の共存機構や単為生殖を行う生物集団の遺伝的多様性の維持機構について議論を深めたい。


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