| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-331 (Poster presentation)

モンゴル南部における長距離移動草食獣モウコガゼルの生息適地推定と開発影響評価

*坂本有実(鳥取大・農), 伊藤健彦(鳥取大・乾地研), 衣笠利彦(鳥取大・農), 篠田雅人(名古屋大・環境), Lhagvasuren, B.(モンゴル科学アカデミー)

モンゴル草原では新規鉄道が建設中であり、野生動物の生息地の分断化や野生動物の大移動への影響が懸念されている。鉄道建設の長距離移動動物への影響評価を目的とし、代表的な長距離移動草食獣であるモウコガゼルの生息適地推定モデルを開発し、鉄道建設地域における生息適地の空間分布の年変動を解析した。モンゴル南部で2013年9月に捕獲したモウコガゼル8個体の約1年間の位置情報と、環境情報データ(地形、植生指数(NDVI)、積雪日数、村からの距離)を用い、分布推定モデル作成ソフトウェアMaxentにより、冬(12-2月)と夏(6-9月)のモウコガゼル分布推定モデルを作成した。また、2007-14年の積雪日数・NDVIデータを用いて、複数年の広域の生息確率地図を作成した。モウコガゼルの生息確率に重要な要因と生息確率の空間分布は季節で変化し、冬は積雪日数が短く、標高が中程度で、NDVIが高い場所、夏は村から離れ、標高とNDVIが中程度の場所で生息確率が高かった。冬の積雪日数と生息確率の空間分布は年変動が大きく、生息確率の高い場所が追跡個体の利用範囲にはほとんどみられなかったのに対し、新規鉄道を挟んだ反対側には比較的広く存在する年もあった。鉄道と国境による分断予想地域内では、生息確率が0.5以上の面積が最大年と比べ夏は64%、冬は99%減少する年が存在し、冬の最小年の面積は分断予想地域のわずか0.1%だった。そのような年には、モウコガゼルは分断予想地域外への移動が必要と考えられるため、鉄道を越える移動可能性確保の必要性が示唆された。


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