| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-343 (Poster presentation)

奈良県吉野川水系におけるハコネサンショウウオ幼生の食性

前原千華*(大阪府立大学)

ハコネサンショウウオOnychodactylus japonicus(以下,本種)は,有尾目サンショウウオ科に属し,本州と四国に分布する日本固有種である.本種幼生は河川水質にきわめて敏感であると考えられており,成体は乾燥に弱いことが知られている.全国では21の都府県でレッドデータリストに選定されているが,奈良県でその詳細な生態を研究した例は少ない.本研究では,本種の保全を検討するための基礎資料を得るために,本種幼生の餌選好性と生活史を調査した.調査は,奈良県吉野郡吉野川水系の上流河川で2015年4~10月に5回行い,のべ245個体の本種幼生を捕獲した.捕獲した本種幼生の胃内容物を胃内洗浄法によって採取し,同じ生息地の底生動物相と比較した.さらに,捕獲した全個体の形態等から年齢を推定し,サイズの季節変動と水中生活期の長さを調査した.本種幼生の胃内容物調査の結果,河川上流部の平瀬や淵を好むとされるヨシノコカゲロウが最も多く,コロタニガワカゲロウがそれに続いた.また,本調査地の底生動物相を明らかにするために,25×25 cmコドラート付きサーバーネットを用いた定量調査を行った.その結果,ミドリカワゲラ科の個体数が最も多く,優占種は本種幼生の胃内容物調査と必ずしも一致しなかった.これらの結果から,本種幼生は周辺に生息する水生昆虫を無作為に捕食するのではなく,視覚を用いてコカゲロウ科などを選択的に捕食していると考えられた.齢構成を調査した結果,4~8月までは0歳,1歳,2歳の年齢群が本調査地に生息し,9月以降は0歳と1歳の年齢群のみが確認されたことから,吉野川水系においても,本種幼生が約3年間水中で生活することが明らかになった.


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