| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-427 (Poster presentation)

冷温帯シバ草原における温暖化操作実験 -自動開閉チャンバー法による炭素動態の連続測定-

*増田信悟(早稲田大・教育),墨野倉伸彦,鈴木真祐子(早稲田大・院・先進理工),小泉博(早稲田大・教育)

本研究は、冷温帯シバ草原を対象に温暖化に対する炭素循環の変化と環境要因による炭素動態の制御機構を明らかにすることを目的とした。実験は2015年4月〜11月の期間で行い、赤外線ヒーターにより2℃のST(地温)の昇温操作を行った昇温区と対照区を4組設け、2組でNEP(生態系純生産量)を、もう2組でReco(生態系呼吸量)を自動開閉チャンバー法により毎月測定した。炭素動態と同時に測定したPPFD(光合成光量子束密度)とSTからPPFD-NEP曲線とST-Reco曲線を作成し、曲線のパラメータを比較した。

AGB(地上部植物体バイオマス)を比較すると有意な差は見られなかったが、昇温区のSWC(土壌含水率)は対照区より0.5ポイント減少した。最大光合成速度はSTによる影響を受け、測定日により変化していた。また、最大光合成速度の日較差を考慮せずに推定したNEP積算値は、考慮した場合と大きく異なっていた。このことから正確なNEPの推定にはSTの日較差を考慮するとともに、長期的な測定に基づいた曲線の作成が必要であると考えられた。次に、Recoの温度感受性を示すQ10を比較すると昇温区は対照区より低い値を示した。AGBに差が見られなかったことから、昇温による土壌呼吸Q10の低下が示唆された。また、降雨によりいずれの区画でもRecoは低下したが、昇温区ではQ10が増加した。SWCの違いから、土壌の乾燥が降雨によるQ10応答に影響を与えている可能性が考えられた。以上より、より高い精度でシバ草原における炭素収支を推定するためには、環境要因の日較差と降雨に対する生態系の応答性を十分に考慮する必要性が示唆された。


日本生態学会