| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-429 (Poster presentation)

新手法を用いた草原生態系における土壌呼吸の非破壊計測 ~温暖化区の炭素収支の詳細な解析~

*墨野倉 伸彦,鈴木 真祐子(早稲田大・院・先進理工), 吉竹 晋平(岐阜大・流圏セ),小泉 博(早稲田大・教育)

温暖化に対する生態系の応答は複雑であると同時に、生態系タイプによって大きく異なることが知られている。我々は、シバ草原を対象にして長期温暖化操作実験を行い、その炭素収支の温暖化応答を明らかにするため、生態系総生産量(GEP)や生態系呼吸(RE)を測定してきた。しかしながら、REの温暖化応答とその内訳である土壌呼吸(RS)などの応答はそれぞれ異なる可能性があり、RSの測定を通じてREを植物体地上部呼吸(RAGB)、根呼吸(RR)、微生物呼吸(RH)に細分化し、個別に解析することが必要である。しかし、先行研究における草原のRSの測定は、植物体の刈取りを伴うため過大評価の可能性があり、より正確なRSの推定には非破壊的な手法が必要とされている。したがって、本研究では、長期温暖化実験において草原生態系の炭素収支の応答を解明することと、新たに開発した非破壊的測定手法により正確なRSを測定し、炭素収支の構成要素を詳細に解析することを目的とした。対照区と温暖化区のRSを、従来よりも小型のチャンバーを多数用いた通気法によって測定した。生態系純生産量(NEP)やRE,RHついては既存の密閉法に従って測定を行った。本研究で用いた新手法はREをその構成要素であるRAGBとRR,RHへ分離することを可能にした。生態系総生産量とREは温暖化初期において増加したが、後期ではいずれもその傾向が見られなくなった。しかし、温暖化後期のREの内訳を見ると、RAGBとRRは増加し、RHは減少するという逆の応答を示していた。したがって、シバ草原においては長期の温暖化により全体の炭素収支に表れる影響が失われても、その構成要素はそれぞれ継続的に温暖化の影響を受けることが示唆された。


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