| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-067 (Poster presentation)

オナモミとイネ

*廣瀬忠樹(東北大生命)

作物イネは与えられた環境において収量ポテンシャルを高める方向に選抜されてきたとすれば、その乾物生産と収量形成の窒素利用効率は野生一年草より高いに違いない。窒素利用効率NUEは吸収窒素あたりの乾物生産と定義され、窒素あたりの生産力NPと、窒素の保持時間MRTの積として表すことができる (NUE = NP x MRT)。MRTは植物Nの積分値を吸収Nで除すことにより得られる。もしイネのNUEが高いのなら、それはNPが高いためなのか、MRTが高いためなのか。繁殖収量の窒素利用効率NUEGYは吸収窒素あたりの繁殖収量と定義され、NUEと収量指数HIの積として表される (NUEGY = HI x NUE)。イネのNUEGYが高いとすれば、それはNUEが高いためか、HIも高いためなのか。著者と研究グループが行ってきた実験のデータを用いて、イネと野生草本の窒素利用効率を比較する。

個体レベル、葉レベルともに、NUEはイネが野生一年草より高かった。ここで個体レベルNUEは植物が吸収した窒素あたりの乾物生産で、植物窒素生産力NPと植物窒素MRTの積に、葉レベルNUEは葉へ分配された窒素あたりの乾物生産で、葉へ分配された窒素あたりの乾物生産LNPと葉窒素MRTの積になる。イネの高いNUEは高いNP、LNP、LNR(葉N/植物N比)のためで(NP = LNP x LNR)、植物窒素と葉窒素のMRTが野生一年草より高いことはなかった。NPとMRTとの間にトレードオフがあり、MRTをさらに高めることによる利益は、それに伴うNP低下のオポチュニティコストを下回ると思われる。NUEGYも、野生一年草よりイネで高かったが、これはイネのNUEが高いためで、収量指数HI(あるいは繁殖努力RE)に差はなかった。イネのHIは(短桿化により大きくなったと言われているが)栄養成長と繁殖成長のトレードオフによって、既に最大値に達しているのだろう。


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