| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-074 (Poster presentation)

植物の落葉タイミングは最適か: 野外での検証

黒川千晴, *及川真平(茨城大・院・理工)

老化し光合成速度が低下した葉から回収された窒素(N)が若い葉に転流され、そこで高い光合成速度を実現するならば、老化した葉を枯らすことは個体全体の炭素獲得の増加につながる(この場合の落葉タイミングを「最適」とする)。以前私たちは、一年草を用いたポット実験によって、貧栄養条件下では老化した葉の枯死によって個体の炭素獲得が増加すること、すなわち最適なタイミングで落葉したことを示した(Oikawa et al. 2008)。一方、富栄養条件下では、葉は最適なタイミングよりも遅く枯れた。炭素獲得の律速要因は、貧栄養条件下では窒素、富栄養条件下では光であった。この実験から、葉の寿命が決まるルールは植物の成長を律速する資源に依存して変わる可能性が伺われた。

この結果の一般性を野外で検証することが本研究の目的である。調査は茨城県水戸市内の落葉広葉樹林で行った。相対的にN可給性が高いと期待されるカバノキ科のN固定種オオバヤシャブシと、同所的に生育しN可給性が相対的に低いと期待される同科の非N固定種イヌシデの枝を調査対象とした。落葉タイミングが最適であったかどうかの検証は、Escudero & Mediavilla (2003) のモデルに基づいて行った。このモデルによると、老化葉のPNUE(日光合成速度/葉窒素濃度)と新葉のPNUEの比が、老化葉からのN回収率を下回るときが最適タイミングとなる。日光合成速度の推定は、Oikawa et al. (2008) に基づき、葉齢に伴う受光量と生理的能力の低下を考慮して行った。オオバヤシャブシでは、老化葉と新葉のPNUEの比はN回収率と有意差がなく、落葉タイミングが最適に近いことが示唆された。一方イヌシデでは、老化葉と新葉のPNUEの比はN回収率よりも高く、落葉タイミングが最適より早いことが示唆された。この結果は、上のポット実験のものとは異なる。その理由について考察した。


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