| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-079 (Poster presentation)

マイクロPIXE法による熱帯林樹木のリン欠乏に対する葉組織内リン分布最適化の検証

*辻井悠希(京大・農・森林生態),及川将一(放医研),北山兼弘(京大・農・森林生態)

リンは陸域生態系で最も不足しがちな元素であり、樹木のリン不足への適応機構の解明は植物生態学の重要な課題とされている。樹木は一般に、葉のリン濃度を低下させることでリン不足に適応するが、これまでの生態学研究では、葉の全組織を混ぜたバルクのリン濃度を化学分析してきたため、その仕組みや適応的意義はほとんど分かっていない。近年、元素分析技術の発展により、葉の光合成組織(柵状組織や海綿状組織)、表皮組織、維管束などの組織間で、リン濃度が異なることが示されている。これら組織間ではリン濃度低下のパターンが異なる可能性があるので、その違いを明らかにすることは樹木のリン不足への適応機構の理解に必要である。マイクロPIXE法は、イオンビームを試料に照射し発生した特定X線を検出することで、試料表面の元素分布を高解像度マッピングする手法である。私達は、この手法を使い、組織間のリン濃度の濃淡を検出することで、解剖学的観点から葉のリン濃度低下の仕組みを解明することを目的にした。キナバル山(ボルネオ島・マレーシア)の土壌リン濃度の異なる3つの森林に生育する13樹種について、葉横断面のリン分布をマッピングし、土壌リン傾度に沿った葉のリン濃度低下に伴い、どの組織のリン濃度が低下するのかを明らかにした。葉の全リン濃度は土壌リン濃度の低下に伴い有意に低下した。そのリン濃度の低下にも関らず、樹木は全サイトを通して柵状組織にリンを局在させていた。これは、低リン環境の樹木が光合成組織のリン濃度を高く維持しながら、葉の全リン濃度を低下させることを示している。本発表では、葉のリン濃度低下の仕組みとその適応的意義について、解剖構造及び他元素の葉内分布との関係から考察する。


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