| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-130 (Poster presentation)

植物病原菌Rhytisma polareがキョクチヤナギの光合成生産に与える影響

*増本翔太(極地研), 内田雅己(極地研), 東條元昭(大阪府大・生環), 伊村智(極地研)

高緯度北極域に位置するノルウェー・スピッツベルゲン島では、矮性低木のキョクチヤナギが優占している。この植物には数種の植物病原菌の感染が知られており、特に本研究の対象種であるRhytisma polareは広域に発生し、かつ感染率が高い。R. polareはキョクチヤナギに感染後、生葉上に子実体を形成する。そのため、本菌は感染葉の光合成生産を阻害すると同時に、宿主が生産した炭素を子実体形成のために吸収する。本研究では、これら2つの宿主に対する負の効果に着目し、R. polareがキョクチヤナギの光合成生産量に与える影響を明らかにした。

感染による光合成阻害の効果を明らかにするために、感染によるヤナギ葉の光合成活性および呼吸活性の変化を測定した。次に、本菌の炭素吸収量を明らかにするため、生葉上のR. polare子実体の呼吸量と炭素含有量を測定した。これらの測定結果に基づき作成したモデルを用い、最終的に着葉期間を通したR. polareによる光合成阻害量および炭素吸収量の値を推定した。

その結果、光合成阻害量は、健全葉の純生産量の10%程度であった。一方で、炭素吸収量は感染葉が着葉期間を通して同化する炭素量を上回る値となった。さらに、これらの結果と感染率調査によってR. polareは、ヤナギ群落の純光合成生産量を最大で30%減少させることが明らかとなり、群落レベルでもその影響は大きなものであることが示された。


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