| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)

冷温帯二次林のSLA動態:Chronosequence、長期観察、形質データの統合

*鈴木智之,平尾聡秀(東大・秩父演)

Specific Leaf Area(SLA, 葉面積/葉重)は、植物の生理的特性・成長戦略の指標となる主要な機能形質である。種ごとのSLAは、各種の遷移系列上の位置(遷移初期・後期など)と対応して異なると考えられる。その結果、SLAの群集全体の平均は遷移の進行とともに変化することが予想される。本研究は、東京大学秩父演習林の冷温帯二次林に設置された長期固定調査区のデータを用いて、種の遷移系列とSLAの関係および二次遷移に伴うSLAの群集平均の変化を解析した。

秩父演習林では1982年または1987年に林齢17-81齢の二次林に固定試験地15区を設置し2012年まで継続的に毎木調査を実施してきた。つまり、Chronosequenceに沿った多地点で長期観察が実施されており、二次林遷移に伴う樹木群集の動態を100年スケールで解析可能となる。このデータから、出現種ごとに約100年間の二次遷移で相対頻度が最も高くなる齢(ピーク齢)を推定した。種ごとのSLAは秩父演習林全体からサンプリングした種あたり成木5個体のSLAの平均を用いた。

これらのデータから、各種のピーク齢とSLAの関係を解析した結果、ピーク齢が大きい(遷移後期)種ほど、SLAが大きかった。また、各種の相対頻度で重み付けした群集平均SLAは、林齢と共に増加した。これは主にSLAの高い種の加入個体が多かったためであった。以上の結果は、遷移が進むにつれて増える耐陰性の高い種ほど、SLAが大きいことを示す。このことは、耐陰性が高い種ほど丈夫な葉をもつ(SLAが小さくなる)ことを予測するストレス耐性仮説ではなく、耐陰性が高い種ほど光獲得を最適化した薄い葉をもつ(SLAが大きくなる)ことを予測する炭素獲得仮説を支持する。


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