| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-169 (Poster presentation)

ナラ枯れ後の海上の森のゆくえ-種子・実生群集動態に着目して-

*渡辺直登,岡田知也,大谷奏恵,中川弥智子(名大院生命農)

全国的に拡大・分散したナラ枯れは、林冠ギャップの形成を通じて、被陰下にある樹木の種子生産量や林床環境に変化を及ぼし、実生動態に作用すると考えられるが、ナラ枯れ後の更新に関する研究例は少ない。本研究ではナラ枯れが発生した海上の森において、ナラ枯れ後の森林構造の変化、種子散布量や実生群集の年変動、実生定着を制限する要因を解明し、海上の森の今後の推移、実生更新の可能性を検討した。

愛知県瀬戸市海上の森内の二次林に3プロットを設置し、2008、2010、2013、2015年の各年に毎木調査を行い、ナラ類の枯損状況と森林構造の変化を把握した。また、各プロットに実生コドラートとシードトラップを各16個設置し、2009年4月~2014年11月にかけて木本実生調査を、2009年4月~2014年3月にかけて種子散布量調査を行った。さらに、2010~2014年着葉期に各コドラートの林床光量を計測した。構造方程式モデリング(SEM)を用いて、実生の新規加入や生残に対する環境要因やナラ枯れの影響を解析した。

ナラ類では、2008年に生育していた5~6割の個体が死亡した。林冠木の大量枯死にともない、各プロットでは一部の種が著しい加入や成長をみせた。このような種では、種子散布量や当年生実生数が大幅に増加した種も多かった。SEMの結果、着葉期光環境に対するナラ枯れの影響が検出され、コナラなどでは当年生実生の生残に対して着葉期光環境が正の影響を与えていた。ナラ枯れにより、一部の種の種子散布量や加入数が増加するとともに、特定の種の生残に有利な環境が形成されたことが示唆された。調査地では、1年生秋以降の生残率が多くの種で安定しており、既に定着した実生についてはある程度更新に寄与し得ると考えられる。


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